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解決市場経営塾 第2回「アフターコロナ時代に重視すべき経営指標」/経済ライター 江口一樹

2021.01.28

新型コロナウィルスの感染拡大を皮切りに、日々、激しく変化し続ける日本経済。その中で、福岡・九州の中小企業の経営陣が持っておくべき経営視点とは何か。日本経済新聞社の記者を経て、帝国データバンクで5000社を超える企業倒産を取材してきた江口一樹氏による連載コラム。

先進国の中で低いわが国の「労働生産性」

前回、中世のペストと新型コロナウイルスの感染拡大について、「歴史が韻を踏むなら、宗教改革がDX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル変革)だとすると、ルネサンスは働き方改革、生き方改革と読み替えることができる」と書いた。

この2つの変化で大きく変わる重要な経済指標、企業にとっては重視すべき経営指標がある。「労働生産性」だ。
では、労働生産性とは何か。

生産性は、それぞれの生産要素の視点から捉えることができます。労働の視点からであれば労働の生産性(労働生産性)、資本の視点からであれば資本の生産性(資本生産性)となります。さらに、投入した生産要素すべてに対して産出がどれくらい生み出されたかを示す指標として全要素生産性があります。

こうした生産性の種類の中で最もよく用いられるのが労働の視点からみた生産性、すなわち労働生産性です。労働生産性は「労働投入量1単位当たりの産出量・産出額」として表され、労働者1人当たり、あるいは労働1時間当たりでどれだけ成果を生み出したかを示すものです。

「労働生産性が向上する」ということは、同じ労働量でより多くの生産物をつくりだしたか、より少ない労働量でこれまでと同じ量の生産物をつくりだしたことを意味します。

日本生産性本部ホームページより

実は、わが国の労働生産性は先進国の中でかなり低い。日本生産性本部の「労働生産性の国際比較 2020」によると、2019年のわが国の就業者1人当たりの労働生産性は、8万1183ドル(824万円/購買力平価換算)で、 OECD(経済協力開発機構) 加盟 37 カ国中 26 位。米国の6割弱の水準だ(表1)。

ちなみに、1位はアイルランドで、同国は1990年代後半から法人税率などを低く抑えることで、GoogleやAppleといった米国の多国籍企業を中心に、欧州本部や本社機能を呼び込むことに成功し、高水準の経済成長と労働生産性の上昇を実現した。

労働生産性が低いと、国民の経済的豊かさを表すとされる国民1人当たりGDP(国内総生産)が低くなる。わが国の国民1人当たりGDPは、1996年にOECD加盟国中6位と、主要先進7カ国の中では米国に次ぐまでに順位を上げたが、21世紀になってからは低迷。2017年からは3年連続で21位と、先進7カ国の中では最も低い順位に甘んじている(グラフ1)。

先進国の中で一足先に人口減少社会を迎えたわが国が、経済的にゆとりのある国であり続けるには労働生産性を高めることがどうしても欠かせないのだ。

労働生産性は規模別、業種別で大きな差

労働生産性が低いことは日本経済全体の問題だけではなく、個別企業の問題でもある。労働生産性が低い企業は当然、収益性が低いからだ。

労働生産性の計算式はこうだ。

付加価値額とは、「人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課+営業利益」の合計で、売上原価に人件費が含まれない非製造業の場合は売上総利益、いわゆる「粗利」にあたる。労働量は人件費と捉えると計算しやすい。

「中小企業白書2020年版」によると、製造業、非製造業ともに中小企業の労働生産性は、大企業の4割程度にとどまる(グラフ2)。

主因は、「労働生産性の構成要素である資本装備率(建設仮勘定を除く有形固定資産の期首・期末平均/従業員数)の差にある」と同書は指摘する。資本装備率は製造業の場合、中小企業が従業員1人当たり631万円、大企業が1812万円。非製造業の場合、中小企業が760万円、大企業が2937万円だ。

労働生産性は、企業規模だけではなく業種別でも大きな差がある。建設業、製造業、情報通信業では高い一方、宿泊業や飲食サービス業などのサービス業では低い(グラフ3)。

DXは「稼ぎ方」、ITは「働き方」を変える

では、企業は労働生産性をどうやって高めるか。

方法は大きく分けて2つある。1つは分母の人件費を抑えること。もう1つは分子の付加価値額を高めることだ。

わが国はバブル崩壊後、リストラ(人員合理化)という名の下に、分母の人件費を削ることで労働生産性を何とか保って利益を捻出してきた。しかし、団塊世代のリタイアによって労働力人口が減少する中、2019年4月から働き方改革関連法が順次施行され、年次有給休暇の取得義務化や時間外労働の上限規制、労働時間の適正把握の義務化等々への対応が必然となった。これ以上単なるリストラで労働生産性を向上させることは困難になりつつある。

そうなると、もう1つの「付加価値を高める」ことがますます重要となる。その鍵を握るのがDX(デジタル変革)だ。そもそもDXはIT(情報技術)とどう違うか。

デジタルトランスフォーメーション(DX)はもともと、ウメオ大学(スウェーデン)のエリック・ストルターマン教授が2004年に発表した論文で使われた言葉です。ブロードバンドが普及したのは01年ごろからで、IT(情報技術)化は当時も取り組まれていました。IT化とDXは何が違うのでしょうか。

企業活動を「内」「外」で考えると、IT化は作業時間や人件費などを抑える「内」の側面が強かったのに対し、DXは「外」を変えます。稼ぎ方というビジネスモデルの変革です。

例えば、米ネットフリックスは1997年に、ネットを活用したDVDレンタル会社として創業しました。その後、映像のストリーミング配信会社へと変貌することで急成長を遂げました。DXはこのように、稼ぎ方を変える「外」の側面が強いのです。

2020年10月19日付け日本経済新聞 やさしい経済学「デジタル変革とビジネス②」

つまり、DXはデータ活用などで高付加価値化を図って「稼ぎ方」を変えるもので、ITは経営管理システム導入などで業務効率化を図って「働き方」を変えるものと捉えることができる。先ほどの労働生産性の公式に当てはめるとこうなる。

労働生産性はKPIでなくKGI

労働生産性向上に取り組む際にはKPI(Key Performance Indicator、最重要業績評価指標あるいは最重要目標数値)を設定することが重要だ。ただし、労働生産性はKPIではなく、KGI(Key Goal Indicator、最終的な目標数値)となる。

KPIとは、「事業成功」の「鍵」を「数値目標」で表したものだ。現場がコントロールできるCSF(Critical Success Factor、最重要プロセス)を使ってゴール(Goal)を目指す。その数値目標がそれぞれKPI、KGIとなる。KPIは1つの数字でなければならない(図1)。

KPIを決める際には、KPIツリーを作成して掘り下げていくと整理しやすいだろう(図2)。KPIに分解するには、分解後の要素が加減乗除(+-×÷)で表現できる必要がある。KGIが「労働生産性」として、付加価値額を高める場合のKPIは「来店客数」など、ITによる業務効率化を図る場合のKPIは、「1人当たり残業時間」などが候補となる。

KPIを設定する際には、「SMARTの法則」と呼ばれる5つのポイントを押さえる。

S(Specific)=具体性(具体的かつ明確な数値で示すこと)
M(Measurable)=計測可能性(定期的に計測できること)
A(Achievable)=達成可能性(現実的にチャレンジ可能であること)
R(Relevant)=関連性(個人的数値目標と企業全体目標との関連性、KPIとKGIとの関連性があること)
T(Time-bounded)=期限(期限が設定されていること)

目標数値は前述の「企業規模別・業種別の労働生産性」(グラフ3)を参考にするとよい。

わが国の労働生産性が低いということは、むしろ中小企業にとってはチャンスでもある。自社の労働生産性を他社より早く、大きく引き上げれば、確実に「勝ち組」になれるからだ。次回は具体的な引き上げ策を紹介していきたい。


Profile

経済ライター
江口一樹(えぐち・かずき)

1960年佐賀生まれ。福岡県立東筑高校、早稲田大学第一文学部卒。1983年日本経済新聞社に入社、1988年帝国データバンクに転職。同社福岡支店情報部⻑、東京支社情報部⻑を歴任して2015年退職。現在、経営コンサルタント、経済ライター、セミナー講師を務める。中小企業診断士。