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解決市場経営塾 第3回高付加価値化に向けたDXとは(前編)/経済ライター 江口一樹

2021.03.01

新型コロナウイルスの感染拡大を皮切りに、日々、激しく変化し続ける日本経済。その中で、福岡・九州の中小企業の経営陣が持っておくべき経営視点とは何か。日本経済新聞社の記者を経て、帝国データバンクで5000社を超える企業倒産を取材してきた江口一樹氏による連載コラム。

マーケティングミックス「4P」に分類してDXを解説

前回、労働生産性の向上を図る方法として、「IT(情報技術)は業務効率化を図るためで、DXは高付加価値化を図るためである」と書いた。そのためにはまず、高付加価値化に向けたDXにはどんなものがあり、その現状はどうなっているかを理解しておく必要がある。
企業が経営戦略を立てるために必要なマーケティングミックスの基本要素である「4P」で、分類して解説したみたい。

Product:製品としてのDX

XR(AR、VR、MRなどの仮想空間技術)

仮想現実(VR)、拡張現実(AR),複合現実(MR)を総称して、XR(仮想空間現実)と呼ぶ。VRは、ヘッドセットを使用してコンピューターが作り出すイメージとサウンドの世界を体験するもの。ARは、任天堂(京都市)のゲームアプリ「Pokémon GO」のように、現実世界の要素にデジタル情報を重ね合わせるもの。MRは、人間だけでは難しい手術など物理的なアイテムと仮想的なアイテムの両方と操作するものだ。

ミック経済研究所によると、2019年度のビジネス向けXRの国内市場規模は140億円(うちVRが85億円、AR/MRが55億円)で、2020年度は2019年度比37.1%増の192億円、2023年度までの年平均成長率は45.8%になるとしている。

3Dプリンティング

文字通り3次元印刷技術のことで、3DCAD(コンピューター支援設計)などで作成した、3次元データで構成された3次元モデルをもとにして作成する。新エネルギー·産業技術総合開発機構(NEDO)は、2030年に金属3Dプリンターの国内外の市場規模は約6500億円と、2017年の5倍になると予想する。米国やドイツのメーカーが先行しているが、日本でも電機大手のほか、芝浦機械(静岡県沼津市)やDMG森精機(名古屋市)など工作機械メーカーも相次いで参入している。

遠隔医療·遠隔授業

いずれもIOT(情報通信技術)を活用したサービスで、新型コロナウイルスの感染拡大で急速に広まっている。5G(第五世代高速通信規格)が普及すれば、市場はさらに拡大するとみられる。

・遠隔医療

遠隔医療のネックは血糖値など患者のデータを測定するのが困難なことだが、こうした医療機器の市場がここにきて広がっている。アボットジャパン(東京·港)は、2017年から血糖値の変動データを常時測定できる装着型の医療機器「フリースタイルリブレ」を提供している。米apple(アップル)は、腕時計型端末「アップルウオッチ」を使った心電図の計測サービスを近く始める。

・遠隔授業

ある地方大学では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、米Google(グーグル)が提供する学習管理サービス「クラスルーム」を2020年度から取り入れた。学生は自宅のパソコンで動画や資料で事前講義を受けて、課題を提出する。出席しての講義はグループ演習など最小限で行い、事後講義もオンラインだ。学生は都合がいい時間に何回でも視聴できるため、俄然習熟度が高くなる。同大学の関係者は、「『教育』の『教える』部分はオンラインで十分。あとは『育てる』部分をどう工夫するかだ」と話す。

ロボティクス

ロボットの設計・製作・制御を行う「ロボット工学」を指す。これからのロボットは、インターネットにつながったセンサーからさまざまなデータを収集、AI(人工知能)で処理して動作するという流れが一般的になると言われている。ロボットというと製造現場でのイメージが強いが、今後は医療介護などサービス市場でも有望だ。矢野経済研究所によると、介護ロボットの市場規模は、2023年度には2019年度比38%増の25億6000万円になるとみている。

自動運転

認知、判断、加速、操舵、制動などの運転操作を、人間の代わりにシステム(機械)が行うもの。国は、自動運転のレベルを0から5までの6段階とし、段階的に実現を目指している。

出典:戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システム研究開発計画(2017.4)

定額制の保守管理サービス

読者は「なぜ、定額制の保守管理サービスをDXのマーケティング戦略の1つと数えるのか」と思ったに違いない。だが、考えてみてほしい。インターネットが普及する前まで、パソコンなどの電気製品を買った場合は、1年間の保証書に購入した店舗の印鑑を押してもらっていた。現在は、大半のメーカーがインターネット経由での会員登録を要求してくるはずだ。

富士通(東京·港)はそれに加えて有料で100以上のソフト使い放題や修理が年1回無料となるサービスを提供している。

こうしたサービスを、製品購入などの「フロービジネス」に対して「ストックビジネス」と呼ぶ。たとえ低額であっても、ストックサービスは好不況の波に左右されにくい分、経営の安定度が増す。製品の再購入につながれば、さらにメリットは大きい。

シェアリングサービス

シェアリングサービスとは、個人や企業が保有する資産を、他人に貸して活用してもらうことだ。今後はさまざまな市場で拡大していくとみられる。普及率が著しいスマホによる売り手と買い手(あるいはサービスの提供者と受益者)を、いわば「中抜き」で直接つなぐことが容易になるからだ。主なシェアリングサービスは以下の通りだ。

カーシェアリング

「自動車を保有するにはコストがかかるが、レンタカーを借りるよりは使用頻度が高い」という人向けに市場が拡大している。最大手は駐車場運営最大手でもあるパーク24のグループ企業、タイムズモビリティ(東京·品川)だ。「タイムズカープラス」という名称で展開、会員数は約150万人で、拠点数は1万3000カ所強に達する。

ライドシェアリング

ある目的地に行くために、「車を運転する人」と「同乗したい人」とを結びつけるサービスで、米Uber(ウーバー)が代表格だ。日本では、運転する人が事業者免許登録をしていないと、いわゆる「白タク行為」にあたるため、導入が進んでいない。ただ、鉄道やバスなど公共交通の乏しい地域で、自治体が実証実験としてライドシェアリングを導入しているケースもある。

駐車場

駐車場所有者のビルや住宅の空き情報を提供、利用者はスマホで事前予約して借りる。貸すための設備の設置費や管理コストがかからないため、低料金をテコに利用者を増やしている。ベンチャー企業のakippa(アキッパ、大阪市)、軒先(東京・千代田)、シード(名古屋市)などが提供している。

民泊

自宅の一室や別荘などを、部屋を必要としている人に貸し出すサービスで、民泊仲介の最大手が米Airbib(エアビーアンドビー)だ。同社のホームページには、世界191カ国と地域の300万件以上の物件が掲載されている。政府は急増する訪日外国人観光客や宿泊施設不足対策として、民泊市場の拡大に向けた「住宅宿泊事業法(民泊新法)」を2018年6月に施行した。

量子コンピューターによる製品開発

従来のコンピューターが「0か1」という2進数による「ビット」で情報を扱うのに対して、量子コンピューターは、「ビット」よりも情報量が多い「量子ビット」で情報を扱うため、処理能力が桁違いに速い。2019年10月には、米Googleを中心とするグループが、世界最速のスパコンで1万年かかる計算を、量子コンピューターによって200秒で実行したと発表したことが話題になった。

量子コンピューターは実践に生かされようとしている。化粧品メーカーのコーセー(東京·中央)は、量子コンピューターを使った化粧品開発に乗り出している。圧倒的な高速計算能力を活用し、蓄積した原料や処方のデータから狙った特性を瞬時に導き出すものだ。

Price:価格戦略としてのDX

キャッシュレス決済

キャッシュレス決済とは文字通り「現金を使わずに支払いを済ませる方法」だ。キャッシュレス決済の種類は、クレジットカードやデビットカードをはじめ、「Suica(スイカ)」や「nanaco(ナナコ)」などの電子マネー、プリペイドカード、QRコード決済など多種多様だ。NRI(野村総合研究所)によると、2020年上半期のキャッシュレス決済比率は28.5%になった。内訳はクレジットカードが24.7%、電子マネーが2%、QRコードが1.16%、デビットカードが0.67%となっている。

そのなかで、比率は小さいものの有望なのがQRコード決済だ。スマホとの親和性があることや、事業者にとっては手数料が低く専用端末がいらないなど、導入のハードルが低いためだ。政府はキャッシュレス決済比率を2025年6月に40%、将来的に80%を目標に、「マイナポイント事業」などあらゆる施策を講じている。キャッシュレス決済は中小事業者にとっても避けて通れなくなっている。

MMD研究所によると、最も利用しているQRコード決済は「PayPay」で、以下「d払い」「楽天ペイ」の順になっている。

サブスクリプション(定額制)

サブスクリプション(サブスク、定額制)は、雑誌の予約講読や年間購読が語源で、ある商品やサービスを一定期間、一定額で利用できるような仕組みを指す。インターネットの普及で市場が広がった。

サブスクには支払う月額料金によってサービス内容が変化する「グレードタイプ」と、短期契約で払うより長期契約の方が安くなる「まとめ払いタイプ」がある。前者の代表例が「Netflix(ネットフリックス)」だ。「ベーシック」「スタンダード」「プレミアム」という3種類があり、月額料金が高いプランほど高画質·複数台数で視聴できる。後者の代表例が「Amazon Prime(アマゾンプライム)」だ。月額プランだと500円だが、年間プランは4900円になる。

ダイナミックプライシング(変動価格制)

ダイナミックプライシングとは、需要と供給に合わせ、利益を最大化できる最適な値段設定を見つける手法で、わかりやすく言えば、人気のある席はそうでもない席より高くなるといったものだ。通常のマーケティングのように、商品の原価や仕入れ値などに応じて値付けをするのではなく、そのシーズンや販売時期の「消費者ニーズ」に応じて値付けを行うのがポイントとなる。ダイナミックプライシングを導入するにはまず、データを収集し、需要と供給を予測した後に価格を設定する。

ダイナミックプライシングはスポーツ観戦で広がりを見せている。Jリーグ(日本プロサッカーリーグ)の横浜·F·マリノスが2018年シーズンから取り入れたのを皮切りに、プロ野球の福岡ソフトバンクホークスや千葉ロッテマリーンズなども2020年シーズンから始めた。

フリーミアム

フリーミアムとは「フリー」(Free、無料)と「プレミアム」(Premium、割増)という、ビジネスモデルの2つの面を組み合わせて作られた造語。基本機能や基本サービスは無料で提供し、高度な機能や容量などを追加して利用する際に、料金を課金してもらうビジネスモデルのことを指す。企業にとっては導入してもらいやすく、中長期的に安定した収益が見込めるといったメリットがある。ベンチャー投資家のフレッド·ウィルソンによって定義づけられ、クリス·アンダーソンが著した『フリ-』(NHK出版刊)で広まった。

フリーミアムの代表的な制限としては、(1)機能の制限、(2)使用量·処理量の制限、(3)サポートの制限などがある。一般的に、利用者全体の5%の人が有料サービスを利用すると利益が出る仕組みとされている。

ブロックチェーン(分散型台帳)

ブロックチェーンとは、分散型ネットワークを構成する複数のコンピューターに、暗号技術を組み合わせ、取引情報などのデータを同期して記録する手法だ。一定期間の取引データをブロック単位にまとめ、コンピューター同士で検証し合いながら正しい記録をチェーン(鎖)のようにつないで蓄積する仕組みである。このことから、ブロックチェーンと呼ばれる。

ブロックチェーンの活用に積極的なのが、個人情報や他社に知られたくない価格情報が含まれる取引が多い不動産業界だ。中古不動産流通プラットフォームサービス「RENOSY(リノシ―)」を運営しているGAテクノロジーズ(東京·港)は、不動産契約の中でも「賃貸」に特化して開発している。

今回はマーケティングミックスの基本要素である「Product(製品)」と「Price(価格)」における高付加価値化に向けたDX事例について解説した。言葉はなんとなく知っていても実態について詳しく知らなかったことがあったのではないだろうか。次回は残りのマーケティング要素である「Place(流通)」と「Promotion (販売促進)」におけるDX事例について解説したい。


Profile

経済ライター
江口一樹(えぐち・かずき)

1960年佐賀生まれ。福岡県立東筑高校、早稲田大学第一文学部卒。1983年日本経済新聞社に入社、1988年帝国データバンクに転職。同社福岡支店情報部⻑、東京支社情報部⻑を歴任して2015年退職。現在、経営コンサルタント、経済ライター、セミナー講師を務める。中小企業診断士。