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解決市場経営塾 第4回高付加価値化に向けたDXとは(後編)/経済ライター 江口一樹

2021.03.09

新型コロナウイルスの感染拡大を皮切りに、日々、激しく変化し続ける日本経済。その中で、福岡·九州の中小企業の経営陣が持っておくべき経営視点とは何か。日本経済新聞社の記者を経て、帝国データバンクで5000社を超える企業倒産を取材してきた江口一樹氏による連載コラム。

Place:流通戦略としてのDX

前編では、高付加価値化に向けたDXの具体例を、マーケティングの基本要素「4P」の「Product:製品戦略」と「Price:価格戦略」でみてきた。後編は引き続き「Place:流通戦略」と「Promotion:販売促進戦略」について話していきたい。

EC(電子商取引)サイト

今や、どの業種にも欠かせないのがEC(電子商取引)の販売チャネルだ。経済産業省の「令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業」(電子商取引に関する市場調査)によると、2019年の小売市場全体に占めるECの割合を表す「EC化率」は6.76%だった。「流通先進国」の米国では14.3%(2020年7~9月期)に達しており、わが国でも新型コロナによる巣ごもり消費で加速することは間違いない。

なかでも、スマートフォン(スマホ)経由で購入するケースが増えている。「電子商取引に関する市場調査」によると、スマホ経由の2019年の物販EC比率は42.4%と、2015年の27.4%に比べて15ポイントも増加している。

企業がECを始めるには、「楽天市場」や「Amazon」などのECモールに出店する方法と、自社でECサイトを構築する方法がある。ECサイトを構築するには、ゼロから構築する「フルスクラッチ」と、ECサイト構築支援会社を活用する方法に分かれる。後者はさらに「ASP(アプリケーションサービスプロバイダ)」「クラウドサービス」「オープンソース」「パッケージソフト」の4つに分類される。

スマホアプリ

内閣府の消費動向調査によると、スマホの世帯普及率は77.6%と、パソコン(67.7%)を上回っている(2020年3月時点)。スマホアプリ市場も急速に拡大している。情報通信会社のフラーがまとめた「モバイルマーケット白書2019」によると、1人当たりの所持アプリ数は99.3個、利用アプリ数は37.5個で、所持アプリに対する利用率は37.7%だった。

スマホアプリ開発にはSwiftやJavaなどのプログラミング言語が必要だが、最近はMonacaやJoint appsなどプログラミング言語の習得なしで比較的簡単に開発できるツールもある。

オムニチャネル

オムニとは「すべて」の意味で、「オムニチャネル」はECサイトと実店舗を区別せずに同じ買い物ができるようにすること。チャネルごとに利潤を追求する「マルチチャネル」とは違って、オムニチャネルはチャネル全体の利潤を目的とする。

オムニチャネルを採用している代表的な企業がホームセンター大手のコメリ(新潟市)だ。同社では2014年から店舗の在庫情報や価格をインターネットで公表。利用客は来店する前に買いたい商品の有無がわかり、ネット上からの配送や店舗での取り置きも頼めるようにしている。

オムニチャネルが注目されるようになったのは、スマホやSNSの普及によって実店舗で商品を比較検討してECサイトで買うという「ショールーミング」や、実店舗に来店せずにすませる「webrooming」が増えたことにある。

公正取引委員会がまとめた「消費者向けeコマースの取引実態に関する調査報告書」によると、オンラインモールを利用している消費者に対し、「ショールーミングを行ったことがある」と回答したのは47%と、ほぼ半数に達した。商品分野では「生活家電等」が最も高い。

オムニチャネルを成功させるには、(1)すべてのチャネルで同じ顧客情報(連絡先·決済方法·ポイント残高)が使えること、(2)すべてのチャネルで同じ商品を同じ価格で買えること、(3)購入手段に関係なく、すべての方法で商品を受け取ることができること、の3点が重要になる。

宅配代行サービス

新型コロナウイルスの感染拡大で最も伸びたサービスの1つが宅配代行サービスだ。エヌピーディージャパンによると、2020年の出前市場規模は前年比50%増の6264億円、外食全体に占める比率は5.7%になった模様だ。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「フードデリバリーサービスの動向整理」によると、2020年11月時点で39.7%が宅配代行サービスの利用経験があり、20代(46.8%)、30代(46.4%)の利用経験率は半数近くになっている。

飲食店側が負担する手数料は注文金額の35%前後で、手数料や容器代を上乗せして出前金額を設定する必要がある。

非接触型決済・セルフレジ・デジタルオーダーシステム

非接触型決済とは、非接触ICカードやスマホ、ウエアラブル端末と店舗の決済端末との間を無線通信して電子決済する仕組みのことだ。「Suica」や「nanaco」などの電子マネーがおなじみだろう。日本ではソニーが開発した「Felica(フェリカ)」という通信規格が普及しているが、世界では「Type A/B」が一般的で、今後日本でも普及が進むとみられる。

セルフレジとは、客自身が商品のバーコードをスキャンして、現金またはクレジットカードなどで支払いまでを行うもの。商品のスキャンまでは店員が行い、支払いのみ精算機で客が行うものはセミセルフレジと呼ばれる。どちらも新型コロナウイルスの感染拡大で、大手スーパーの間では一気に普及し始めている。

飲食店では、これまで券売機がセルフレジの役割を果たしてきたが、最近はタブレットなどのデジタル端末を使ってテーブルで注文できるデジタルオーダーシステムを取り入れる飲食店が増えている。新型コロナウイルスの感染対策としてだけでなく、人件費の節約にもつながるからだ。入店時にQRコードを読み込んでもらうことで、来店客のスマホを注文端末として利用するサービスもある。

5G(第五世代高速通信規格)

5Gとは「5th Generation」の略語で、(1)高速で大きな容量の通信ができること、(2)信頼性が高く低遅延の通信ができること、(3)多数の機器に同時に接続ができること、の3つの特徴がある。わが国ではNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが2020年3月に、楽天モバイルが同年9月にサービスを開始したが、サービスエリアは都市圏の一部にまだ限られている。

企業にとって有望な技術が、5Gでプライベートネットワークを構築する「ローカル5G」だ。ローカル5Gの免許は「自己の建物」あるいは「自己の土地の敷地内」において、建物や土地の所有者に対して与えられる。メリットは、(1)Wi-Fiよりも広範囲でカバーできる、(2)通信トラブルの影響を受けにくい、(3)外部のネットワークと完全に切り離して運用でき、セキュリティの強化が図れる、などだ。利用方法としては、IoTやAIといったIT技術を駆使したスマート工場、スポーツや音楽などの映像配信、遠隔での機器操作などが考えられる。

ドローン

遠隔操作や自動制御によって無人で飛行できる航空機の総称。バッテリーを含めた機体重量が200gを超えるドローンを、以下の3つの条件で飛行させる場合は、事前に地方航空局長や空港事務所長の「許可」が必要とされ、ほかに「承認」が必要なケースもある。

1.空港などの周辺空域
2.人口集中地区の上空
3.地表や水面から150m以上の高さの空域

詳細は、国土交通省ホームページ参照。政府は「空の産業革命に向けたロードマップ2020」を策定、段階的に規制緩和する方針だ。

ドローンを飛行させるために取得が義務付けられている免許や資格はないが、認定資格には、実技系としてDJI、JUIDA、DPAが、座学系としてドローン検定協会がある。

Promotion:販売促進戦略としてのDX

SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)

会員制交流サイトのことで、Facebook、Twitter、Instagram、YouTube、LINEなどが代表的だ。利用者は基本的に無料でサービスを利用でき、多くのサービス提供者は登録情報やさまざまなサービス側に蓄えられた履歴情報などをもとにしたターゲティング広告が主な収入源となる。

2015年とやや古い調査だが、企業側がソーシャルメディアを活用する目的は、いずれのSNSも「企業全体のブランディング」が最も多い。

Webマーケティング

ECを推進するに当たってWebマーケティングは欠かせない。Webマーケティングの特徴は、(1)効果測定が簡単で正確、(2)一人ひとりを対象にすることが可能、(3)比較的低コストで始められる、(4)結果がスピーディにわかる、(5)対象範囲が広い、が挙げられる。

それぞれの用語については以下の通り。

・SEO(検索エンジン最適化)
検索結果の上位に表示されるようにして、自社ページへのアクセス増を促す集客施策。

・アドネットワーク広告
複数のWeb広告媒体に広告を配信する方法。

・リスティング広告
検索エンジンの検索結果画面に表示される広告枠に、テキストの広告を掲載する方法。

・アフィリエイト広告
提携する個人ブログやメールマガジンなどに広告を掲載してもらい、そこから自社のWebサイトに誘導する方法。

・LPO(ランディングページ最適化)
ユーザーが情報を得るためにクリックして最初にたどり着くページ(ランディングページ)をユーザーのニーズに合わせて最適化し、CVR(コンバージョンレート=成約率)を上げる手法。

・Web接客ツール
サイトを訪問したユーザーに対して、チャットツールやチャットボットなどを用いて会話したり、各ユーザーの状況や属性に合った情報を提供したりするツール。

・EFO(入力フォーム最適化)
ユーザーが会員登録や資料請求などをする際の入力フォームを、ユーザーがストレスなく入力できるように最適化する手法。

・リターゲティング広告
ユーザーが過去に閲覧したWebページに基づいて、後を追いかけるように関連広告を何度も表示する方法。

・メールマーケティング
ユーザーの行動履歴ごとに内容や配信のタイミングなどを変えてメールを配信する手法。

CRM(カスタマーリレーションシップマネージメント)

「顧客関係管理」のこと。機能としては、(1)顧客情報の管理·共有といったデータベース機能、(2)見込み顧客へのメール送信やホームページのアクセス解析などのプロモーション機能、(3)顧客アンケートやセミナー·イベント管理などの顧客サポート機能に分けられる。SFA(営業支援ツール)と似ているが、SFAが見積書の作成や日報管理など営業マンの支援に重点を置くのに対して、CRMは顧客情報に重点を置いているのが特徴だ。

セールス自動化

営業活動の一部、または全体をITツールで自動的に行うこと。米国マッキンゼー·グローバル·インスティテュート社の調査によると、営業担当者を含む対人業務の24%は自動化できるという。営業活動は訪問営業(フィールドセールス)と、見込み客の抽出や電話営業、メール送信などのインサイドセールスに分かれるが、セールス自動化はインサイドセールス支援が中心となる。

AI(人工知能)活用のマーケティング

AIのうち特に注目を集めているのが、人間が手を加えなくてもコンピュータが自動的に大量のデータからそのデータの特徴を発見する技術、いわゆる「ディープラーニング」だ。画像·音声認識や自動翻訳、ロボットによる異常検知などに応用されている。

AIを活用したマーケティングの成功事例として有名なのが、三重県伊勢市にある土産物店や食堂を営む老舗商店「ゑびや」。「そろばん」と「手切りの食券」の店だった同社は、POSデータや天気予報、曜日、近隣の宿泊客数といったデータから翌日の来客数をほぼ予測することに成功した。難点は、購入者の年齢や性別がわからないこと。それを解決したのが店内カメラとAIを活用した映像解析サービスだった。

中小企業にとっても「AI」は遠い世界の技術ではない。どんなAIサービスがあるかを知るためには、AIポータルサイト「Smiley」が参考になる。

以上がマーケティングミックスの基本要素「4P」で分類した、高付加価値化に向けたDXの主な具体例だ。あくまで簡単な紹介にとどまっているので、興味を持った項目については、ぜひ専門書などで学んでほしい。次回は、これらのDXを使って企業がどう変革していくべきかを述べてみたい。


Profile

経済ライター
江口一樹(えぐち・かずき)

1960年佐賀生まれ。福岡県立東筑高校、早稲田大学第一文学部卒。1983年日本経済新聞社に入社、1988年帝国データバンクに転職。同社福岡支店情報部⻑、東京支社情報部⻑を歴任して2015年退職。現在、経営コンサルタント、経済ライター、セミナー講師を務める。中小企業診断士。