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新規事業立ち上げで失敗しがちな二大理由とその対策(前編)/コンサルタント 廣瀬隆彦

2021.06.07

会社の経営に関わる方々は、既存の事業だけではなく新規事業を立ち上げる必要も感じているのではないでしょうか。しかし、新規事業の立ち上げにおいては、社内の体制や立ち上げまでの道筋をしっかり整えておかなければうまくいきません。日本の企業が陥りがちな失敗やその対策について、コンサルタントの廣瀬隆彦氏が2回にわたって語ります。

日本で新規事業の立ち上げがうまくいかない理由とは

日本の人口減少については何年も前から問題になっており、会社を継続させていく上では大きな問題となっています。さらに、近年は新型コロナウイルスも発生。「このままでは経営は先細りしていく一方ではないか」との懸念から、新規事業を立ち上げて投資していこうと考えている経営者や経営層の方々も多いのではないでしょうか。

経済産業省からも中小企業等事業再構築促進事業として補助金が出されるなど、国からの支援に後押しされて、中小企業でも新規事業の立ち上げに乗り出そうとしている企業もあると思います。そういった補助金なども使いながら新規事業を立ち上げること自体は、とても良いことですし、会社を継続していく上では必要なことです。しかし、新規事業を立ち上げる際に、非常に陥りやすい失敗があるので注意していただきたい、というのが今回のお話です。

新規事業の立ち上げに取り組む際、会社の規模が10人程度だったりオーナー企業だったりすれば、経営者が旗を振って引っ張っていくことで成功するケースも多いでしょう。しかし、50~100人規模の会社になると社長一人で全員を引っ張っていくことはできませんし、他の社員たちと合意形成を図りながら進める必要が出てきます。この場合が、非常に失敗しやすいのです。

新規事業を進める場合、「全く新しいことを考えるのだから」と、担当者に社内の20~30代……デジタルネイティブやZ世代と呼ばれる、リテラシーの高い目立った人を選びがちです。しかし、このケースはうまくいかないことが多いです。これは決して「その世代の人たちには新規事業の立ち上げはできない」と言っているわけではありません。そうではなく、日本企業の場合、組織的な課題を抱えていることが多いからです。これは、日本でイノベーションがなかなか起こらない理由の一つでもあります。

「アンゾフの成長マトリックス」から見る新規事業

なぜ日本では、うまく新規事業の立ち上げができないのかを説明する前に、まずは新規事業とはどういうことかを見ていきましょう。上記の図は、ビジネスの成長戦略を考えるフレームワークの一つである「アンゾフの成長マトリックス」です。これは、「製品」と「市場」について、「既存」と「新規」で4象限に分類し、事業拡大の戦略を探索していくものです。

多くの人が「新規事業」と言われた時に想像するのは、このマトリックスにおける「製品開発」と「多角化」の2つだと思います。「製品開発」は既存の販路に新しい製品を開発して販売していくことで、「多角化」は新規の市場に新規の商品を売ること。この「多角化」にあたる例としてよく挙げられるのが、富士フイルムです。同社が長年培ってきたフイルムの技術を化粧品に転用することで、全く新しい市場に新しい商品「アスタリフト」を生み出した。元々持っていた技術を活用しているのでゼロから作ったわけではありませんが、まさに新規事業であり、多角化と言えます。

「アイデア」から「開発」に進むための関門とは

新規事業を立ち上げようとする際、まずどの企業でもアイデアを出し合うことでしょう。全く新しいものの場合もあれば、これまで培ってきた技術と新しいものとの掛け算の場合もあります。「これまでの課題を解決できる画期的な●●を作ります!」「我が社のこの技術を生かして、今までにない▲▲を開発します!」といった具合です。ここまでは、たくさんアイデアを出せることが多いです。しかし、ここから先に日本企業が陥りやすい2つの問題があります。

1つ目は、「新規事業の企画書を作ることができない」ということです。前述したような、「デジタルネイティブやZ世代と呼ばれる、リテラシーの高い目立った人」たちは、そもそも経験値が少ないので、新規事業の企画書を作ったことがありません。そして、さらに問題なのは、彼らが先輩たちに頼ろうと思っても社内にも新規事業の企画書を作ったことがある人がいないことです。新規事業の企画書における正解がわかる人が、社長も含めて誰もいないケースが十分あり得るのです。

一方、社長は彼らの出してくるアイデアを認める姿勢を持ちつつ、「事業として成り立つのか」と言う視点でも見ていかなければなりません。今後この事業に時間とお金とリソースを投入していって本当に物になるのかを見極める必要があります。これは経営者として当然のこと。そのため、結果的にこの「アイデア」から実際に「開発」に入るまでが第一の関門となってしまい、この時点で企画が潰れてしまうことが多い。経営者は、出てきたアイデアに対して実際にお金と時間とリソースをかけて「やってみよう」とならないし、新規事業を考える側も、「やってみなさい」と言わせるだけのスキルやノウハウを持っていないのです。これは、日本企業ではよくある光景だと感じています。

周囲の新規事業立ち上げへの無理解が及ぼす影響

日本企業で新規事業がなかなか立ち上がらないもう一つの大きい理由が、新規事業に取り組んでいる人のことを、既存事業に取り組んでいる人たちが批判しがちであることです。新規事業の立ち上げですから、開発や製品化のためにお金は使うけれど、当然売り上げは上がらない。しかも、既存事業に取り組んでいる人たちから見ると、何か楽しそうなことをやっているように見える。これらのことから、「あいつら何やっているんだ」という目で見られる傾向にあります。

人間ですから、そこには嫉妬の気持ちももちろんあると思います。しかし、既存事業は既存事業で経営層から、「変革しろ」「効率化しろ」と厳しいことを言われながら仕事を進めている。そんな中で一生懸命売り上げを上げている人たちが、全然利益の上がってこない仕事をしている新規事業の担当者たちに対して、そう思ってしまうのも仕方がない部分もあるのです。しかし、その矛先が新規事業の担当者に向いてしまうと、担当者は参ってしまいます。

そのため、会社としてはこの2点についてのフォローをしっかり行っていかなければならないのですが、それができないため新規事業はなかなか立ち上がりません。さらには、新規事業に有望な若手社員を抜擢したけれどきちんとフォローできなかったことで、彼らが退職してしまうということも起きています。

経営する上で大切にするべき「両利きの経営」

このようにお話しすると「新規事業の立ち上げなんて必要なのか」といった気持ちになるかもしれません。しかし、私たちを取り巻く環境がどんどん変化していく以上、新規事業について考えていくのは本当に大切なことです。有名な経営コンサルタントである冨山和彦氏は、チャールズ・A・オライリー他との共著である『両利きの経営』(東洋経済新報社)で「新たな事業機会の発掘と既存事業の深掘りをバランスよく行いましょう。それが両利きの経営です」と語っています。

これまで、日本はどちらかというと既存事業の深掘り・深化が得意でした。その方面で収益化することにあまりにも寄っているため、新たな事業機会の発掘や探索は、やりたがらない傾向にあります。だから、「新しい事業立ち上げよう」と言うと、「何言っているの、この人」「お金をかけて、そんな不確かなことをして」といった反応になってしまいがちです。しかし、事業を継続していく上では、両方行っていくことが必要なのです。

次回は、これらの問題にどのように対応していくことで新規事業の立ち上げを実現させることができるのか、具体的な対応策についてお話ししていきます。


Profile

廣瀬隆彦

コンサルタント/ディレクター
廣瀬隆彦

CX Value Lab株式会社 代表取締役CEO。愛知県名古屋市出身、福岡県糸島市在住。現エイベックス株式会社入社、法人営業、安室奈美恵などの販売促進担当、直販ECサイトの責任者などを経て2009年に福岡へ移住。グローバルレストランチェーンのマーケティングを担当したのち、2018年7月に株式会社メルカリへ入社。組織組成、マネジメント、リーダー育成、KPIやプロセス設計などに従事。2020年3月 CX Value Lab株式会社を設立。セミナーやイベントの司会・モデレーターとしても活躍。グロービス経営大学院で経営学修士(MBA)を取得し、TOP5%の成績優秀修了者として卒業している。