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新規事業立ち上げで失敗しがちな二大理由とその対策(後編)/コンサルタント 廣瀬隆彦

2021.06.08

会社の経営に関わる方々は、既存の事業だけではなく新規事業を立ち上げる必要も感じているのではないでしょうか。しかし、新規事業の立ち上げにおいては、社内の体制や立ち上げまでの道筋をしっかり整えておかなければうまくいきません。日本の企業が陥りがちな失敗やその対策について、コンサルタントの廣瀬隆彦氏が2回にわたって語るコラムの後編をお送りします(前編はこちら)。

新規事業を立ち上げる際に重要な「基準」とは

前回、新規事業の必要性と、なぜその立ち上げがうまくいかないかについてお話ししました。今回は、具体的にどのように進めたらいいかについてご説明します。

まず、新規事業を立ち上げる際にうまくいかない理由の1つ目に、「新規事業の企画書を作ることができないこと」を挙げました。新規事業に向けたアイデアをどれだけたくさん挙げたとしても、いくら斬新なアイデアを思いついたとしても、経営会議を突破しなければ開発の段階には進むことができません。そのため、まずやりたいことが決まったら、事業化までの道筋を明確にして、事業モデルを想起させる状態を作り出す必要があります。

そのためには、「初年度でこのくらいの価格帯で販売して、これくらいの利益が出て……」といった収支計画を仮でいいので作っておく。もちろんまだ立ち上げていない事業ですから、その計画は想像に過ぎません。それでも、企画にロジックと数字が紐づいている事業計画書はやはり必要だと思います。となると、最低限そういったものを作れるビジネススキルは必要になってきます。

多くの会社で新規事業の立ち上げが進まないのは、この事業計画書を作れない会社が多いのだと思います。逆に言うと、事業計画がきちんと立てられていないアイデアを、「いいね!」と言って通してしまう経営者は、経営者として問題です。ですから、まずはここをきちんと押さえましょう。

事業計画書を作る上で、一番重要になるのが「撤退基準」です。これは例えば、「この時期にテスト販売を実施してみて、最低このくらいの数が売れなかったら撤退します」といったものです。会社側からすると「絶対にここまではコミットしてください」というラインになります。たとえテスト販売まで辿り着かなかったとしても、何か新製品を作るのであれば、試作品を作ってサンプリングしてフィードバックをもらうなどは実施するはずです。その際に、定性・定量での評価をもとに「ユーザーアンケートをとって、満足度がここまで到達しなかったら中止する」といった撤退基準を設けておかなければなりません。

1カ月に1回は難しくても、2カ月に1回くらいのペースでレポートしながら、例えば8〜10カ月程度取り組んでみて、「ここまで至らなかったら撤退します」という基準を決めておくのです。この基準を超えたものだけが、大きな金額が投入され、次のステップである「製品化」に向けて動き出すという流れになります。

もちろん、その先にも関門があって、製品化したものを世の中に出すと、今度は競合商品に淘汰されずに生き残れるものかどうかが試されます。このように新規事業を確立するまでには、アイデアから開発へ、開発したものを製品化へ、製品化したものを世に出して事業化するという段階があります。それぞれの段階において行うべきことは全く異なるので、それぞれに撤退基準を設けて進めていく必要があるのです。ですから、新規事業を進める上では、上司はその道筋をきちんと示してあげることが重要です。

新規事業に関わる担当者をいかに支援するか

新規事業がなかなか立ち上がらないもう一つの理由として、「新規事業に取り組んでいる人のことを、既存事業に取り組んでいる人たちが批判しがちであること」を挙げました。既存事業とは全く違うことに取り組んでいるので、「あの人たち、何やっているの?」といった声が上がるのは仕方のないところでもあります。

この時に大事なのは、新規事業の担当者の上司やその周辺の40〜50代の方々が、彼らの役割をどこまで理解して守ってあげられるかにかかっています。他の社員たちに新規事業に対する理解を求め、新規事業の担当者の大変さを理解し、支援することが不可欠です。新規事業の立ち上げに携わる方々は、会社からの期待を背負って、結果の見えない不確かなものにチャレンジしているのです。そんな彼らが困って相談した時に、上司から「自由にしていいよ」「勝手に言わせておけばいいよ」などと言われてしまうと心が折れてしまいます。

また、新規事業に携わる方々に対しての評価基準を設けることも大切です。彼らの業務は、既存事業と同じ評価基準では評価できません。既存事業の評価軸の多くは「どれだけ利益をあげたか」だと思いますが、新規事業はそこでは測れません。形がないものを作り出す段階を担っているのですから、別の評価軸を作ってあげなければ、彼らは収益を上げるまで評価がマイナスとなってしまいます。

そこで評価基準にもつながるのが、前述した「撤退基準」です。撤退基準は「ここのレベルまでのものを作ります」ということなので、そのレベルまで到達できているかをきちんとチェックしてあげる必要があります。新しい商品やサービスが形になっていく過程を評価してあげなければ、彼らもなんのために新規事業の立ち上げに取り組んでいるのかわからなくなってしまいます。こういったことをきちんと行っていかなければ、優秀な若者が退職してしまうことにもなりかねません。新規事業を立ち上げるなら、その点はしっかり押さえておく必要があります。

DXも新規事業の立ち上げも、変わりゆく時代に不可欠なもの

このように、新規事業を立ち上げる場合は、担当者に任せるだけでなく、彼らの上司に当たる40~50代もしっかりとその支援を行い、正しい評価をしていく必要があります。一方で、評価する側も新規事業立ち上げの経験がないし、どのようにして彼らを支援するべきかわからない場合も大いにあるでしょう。そういった場合は、ファシリテーションしたりコンサルティングしたりできる外部の人に協力を仰ぐのも一つの方法です。

新規事業の立ち上げは、DXを進めていくことと非常に近しいものがあります。DXも、バックオフィスの見直しをして効率化したり、マーケティングオートメーションを活用して売り上げを上げたりと、今すでに行っていることの深化の方が取り組みやすいし、わかりやすいものです。もちろん、こちらも必要なことなのですが、一方でDXを活用して新しい領域に踏み込んでいくことも考える必要があります。

もちろん、新規事業は必ずしもデジタル領域である必要はありません。しかし、DXを進めていく過程においても、新たに踏み出せる事業領域はないかを探索していく必要があるということです。目まぐるしい状況の変化の中で事業を継続していくためには、新規事業を考え、変化していくことは不可欠です。DXにしても経営にしても、ぜひ新規事業も見据えながら進めてください。


Profile

廣瀬隆彦

コンサルタント/ディレクター
廣瀬隆彦

CX Value Lab株式会社 代表取締役CEO。愛知県名古屋市出身、福岡県糸島市在住。現エイベックス株式会社入社、法人営業、安室奈美恵などの販売促進担当、直販ECサイトの責任者などを経て2009年に福岡へ移住。グローバルレストランチェーンのマーケティングを担当したのち、2018年7月に株式会社メルカリへ入社。組織組成、マネジメント、リーダー育成、KPIやプロセス設計などに従事。2020年3月 CX Value Lab株式会社を設立。セミナーやイベントの司会・モデレーターとしても活躍。グロービス経営大学院で経営学修士(MBA)を取得し、TOP5%の成績優秀修了者として卒業している。